愛の形は幾つもある・・・
【Mermaid】今回真児さんが 紹介するのは"Cuicui story(「翠翠伝」)"。「剪灯新話」に収録されているQu You(瞿佑)の作品です。
【Zhener】あまり気持ちのいい話でもないのだが、それなりに心を打つのは確かかな。
簡単な粗筋
【Mermaid】では、簡単な粗筋をお願いします。
【Zhener】淮安(江蘇省)の裕福な民家にLiu Cuicui(劉翠翠)という聡明な少女がいた。彼女は学問が好きだったので少女ながらに塾に通っていた。その塾には彼女と同い年のJinDing(金定)という名前の少年がいた。二人は周囲から「同い年なんだから君たちは夫婦になったらいい」とからかわれていた。また、二人ともお互いを憎からず思っていた。
【Mermaid】まあ、ほほえましいですね。
【Zhener】年頃になった翠翠に縁談が来たのだが、それを彼女は断った。金定じゃないと嫌だ、というのである。両親は定を評価していたものの、彼の家は貧しかった。そこで定が劉家に婿に入る、ということで手を打った。
【Mermaid】よかったじゃないですか。
【Zhener】しかし、しばらくして二人の未来に暗雲がたちこめる。Zhang Shicheng(張士誠, 1321-67)が暴れまわってた頃だったので淮河沿岸の郡部のあらかたを占領してしまい、その配下の将軍に翠翠がさらわれてしまった!まだ戦乱は続いていたので、定は探すこともできない。そしてある程度世情が安定してから彼は妻を探しに行くのだが・・・。
「愛卿伝」の別バージョン
【Mermaid】この「翠翠伝」の翠翠さんですが、以前紹介した「愛卿伝」の愛卿さんとは異なる選択をしたのですね。
【Zhener】そう。ちなみに人魚ちゃんはどちらが正しいと思う?
【Mermaid】どちらとも言えません。金定さんと再会するために敢えて屈辱に耐える翠翠さんも、恥辱を拒んだ愛卿さんも、どちらも正しい。間違っているとすれば彼女たちにそういう決断を迫った時代や環境でしょう。
【Zhener】・・・まあ、無難な答えかな。
【Mermaid】ダメなんですか?
【Zhener】いや、間違いじゃないよ。も「どちらがダメ」とは書いてない。愛卿がいいなら翠翠はダメになるし、翠翠がいいなら愛卿はダメになる。でも人魚ちゃんが言ったように、彼女たちに責任を求めるのは非道だろう。なおこの作品は倭国でも翻案されていてねえ・・・。
倭国人どもの翻案作品
【Mermaid】またですか。例によって駄作なんですか?
【Zhener】浅井了意はただ舞台と登場人物の名前を変えただけ。で、あの頭の悪い蟹男がやっとるんよ。しかもまあこんな・・・。
【Mermaid】うわ!これは・・・
【Zhener】なんてことはない。要は「翠翠と愛卿の優劣をつけること」から逃げたってわけよ。異常に説得力がねえ!この宮木ってのは忍者で「アタシ、ひたすら待ってるってばよ!」とか言ってんのか(笑)?英語圏では売れそうな気もするけど・・・。
【Mermaid】この蟹男、自分の意思を持たない女性が好みなんですか?はっきり言ってキモオタの発想ですね・・・。
【Zhener】だから今に至るまで世間では評価が低いのよ。それにアレや、男に対してはダダ甘やろ?
【Mermaid】金定さんは必死で翠翠さんを捜し歩いたのに、この男は何もしていない!
【Zhener】無能には甘いのよ、奴は。
Also, this tale is another version of "Butterfly Lovers".
【Mermaid】 "Butterfly Lovers"を意識していますよね?
【Zhener】実際に早い段階でZhu Yintai(祝台英)のことが書かれてましたな。ただ、中国文学史にはあれほどには名前を残せなかった。物語の美しさが足りなかったんだろう。