少し毛色の異なる狐の話
【Mermaid】真児さん、今回は何を紹介するのですか?
【Zhener】"Wàng Chéng(王成)"を紹介するよ。『聊斎志異』の中の一作で他愛のない話だとは思うけど、少し面白いところもあるのでね。前もって言っておくのですが、今回も狐が出てきます。それも、変わったのが。
【Mermaid】またですか(笑)。でも変わったのが?
主人公は零落した富裕層
【Zhener】山東省に没落した旧家出身の男がいた。名前をWàng Chéng(王成)という。彼は怠惰だったからそうなった。一応妻もいるのだが、彼女とはいさかいが絶えなかった。まぁ貧すれば鈍するのは古今東西同じだねぇ。
【Mermaid】でも「怠惰だから没落した」のであれば、当たり前ではないですか?まぁ怠惰極まるのにいつまでたっても没落しない悪人の名門も結構あるのですが・・・。
【Zhener】それはおいおいに。ある暑い夏の夕方、涼みに行った先で成は金の簪(”儀賓府造”と彫ってある)を拾う。そこに何かを探している婆さんが来たので、成は彼女にこれを探しているのでは?と見せてみる。婆さんの探し物はまさにその簪で、大変感謝された。
【Mermaid】このお婆さんが何者かなのですか?
【Zhener】そう。実は彼女は年とった狐で、しかも成の祖母(祖父の妻)だった!当時は一夫多妻ですから祖母が何人かいても問題ないでしょう。化け狐が祖母なのがいいかどうかはさておき。
【Mermaid】”化け狐”?なんか怖いような・・・。
【Zhener】本人(狐)申告によると”狐の仙人”らしい。
世話を焼く祖母の狐と、その孫
【Mermaid】そうだったのですか、あぁよかった・・・。
【Zhener】さて祖母は孫の零落・赤貧ぶりを大いに嘆き、彼に何かさせようと考えた。で、彼女は孫夫婦と同居することに。妻は最初は怖がっていたが、義祖母の人(狐)となりがわかってくるとそれも徐々に薄らいでいった。
【Mermaid】よかったじゃないですか。でも生活の方は・・・。
【Zhener】祖母は狐なので人のように金銭や絹布にあまり固執しなかったので、それなりに財産を持っていた。それを元手に葛布を仕入れて成に燕都(現在のBeijing北京)に行商させることにした。「7日くらいで到着できるから、とにかく急いで行くんだよ」と言って送り出したのだが・・・。
とにかくついてなかった王成
【Mermaid】狐も結構お金持ってるんですね。私たちもあまり使うことがないのでそれなりに資産はありますが・・・。ということは、急がなかったんですね。
【Zhener】道中で大雨に遭い予定を二日超過した。そしてそれがたたって葛布は値崩れを起こしていた。二日早ければ貴族が高値で買ってくれたのに・・・。
【Mermaid】でも不可抗力ですからね・・・。
【Zhener】よくないことはまだ続く。値段が戻らないと判断した成は葛布を処分するが(当然赤字だ)、今度はその売り上げを紛失してしまった。人には「役所に申し出て、宿の主に弁償してもらえ」と言われたが、彼は「これも僕の運命だろう」とそれはしなかった。単に諦めていたのかもしれないが。自分の世話を焼いてくれた狐の祖母に会わせる顔がない・・・。
【Mermaid】・・・王成さんは良くも悪くも育ちがよくてお金儲けに向いていないんでしょうね。「怠惰」というよりは闘争心が極端に薄いような気がします。
【Zhener】彼は偶然に鶉の闘鶏を見る。それの投機をやろうと考えたのだ。
【Mermaid】う~ん、私には悪い予感しかしませんけどね・・・。かといって地道にコツコツやれる人ではないだけに・・・。
【Zhener】闘鶏のために鶉を買い込んだが、それから長雨が続いて鶉は一羽を除いて全滅。たまらないのは王成。これによって資金が尽き、帰郷もできなくなった。まさに万事休す。彼は厭世的になっていた。ただ、宿の主は「生き残ったこの鶉は、物凄く強いのかもしれない」と成を励ます。はたしてそれはどうなのか?
『聊斎志異』としては弱い部類?
【Mermaid】王成さんの人となりはわかりました。ただ、失敗も(ここでは紹介されていないが)成功もあまり関係ないですよね?
【Zhener】そうですね。成功・失敗も運によるものですから。
【Mermaid】あと狐の妖怪がお婆さんというのは何だか面白い気がします。
【Zhener】普通イメージするのはムチムチした美女ですからね(笑)。話から見るとどうやら王成はこの婆様の直系の孫みたいなんで、運が開けたのもそれが少々はあるのかもね。あと婆様の狐は確かに少ないんだが、これまでにいなかった訳でもない。